新大陸と朝ごはん

 
 
「有難う。これですっきりした。さすがですね。」
 
男はたいそう喜んで、ひと包みの薬と白湯を出してきました。
早速アウダに飲ませると、腹痛はうそのように治まったのです。
 
「面白いところだけど、そろそろ船に戻りましょうよ!」

アウダをエスコートしながら、店をでて脚を早めるパスパルトゥー。
 
ふとフォッグ氏が振り返ると、いましがた出てきた店はかけらもなく、
ただごちゃごちゃした古い家が並んでいるだけなのでした。
 
(不思議なこともある。それが世界だ。)
 
言葉にださないままフォッグ氏は、そう心に刻みつけて港に帰っていきました。
 
 
 
11月14日夜、いよいよ船はサンフランシスコへと出港しました。
 
この船は太平洋郵便会社のもので、名前はグラント将軍号。

2500トンの設備の整った大きな外輪船で、3本のマストがあり、
マストに張られた帆は大きい推力を船に与え、蒸気の力を補って船を走らせるのでした。
このたくましい船で、時速12マイルで航海すれば、船は21日で太平洋を横断することになります。
 
この船により、フィリアス・フォッグは12月2日にサンフランシスコに着く予定であり、
その後は12月11日にニューヨーク、そして12月20日にはロンドン。
それゆえ、12月21日という運命の日付にはまだ数時間の余裕があるのでした。
 
 

グラント将軍号は無事にサンフランシスコに到着。

その日のうちに、一行は滞りなくニューヨーク行きの列車にのりました。
列車は7日でサンフランシスコ・ニューヨーク間を走破する予定です。
従って、フィリアス・フォッグは、11日にニューヨークからリヴァプールに向けて出航する
大西洋汽船に乗れるという希望が持てるのでした。
 
 
広い大地をひたすら走る列車。

ごくごく順調に進む列車の旅は、
いままでトラブル続きだった一行のしばしの休息のようでありました。
 
ある朝、朝食のテーブルでアウダがフォッグ氏に聞きました。
 
「この列車の食事はいかにもアメリカ的で、いろいろなものが混ざっておりますけれども、
お国の朝ごはんはどんなメニューなのでしょう?是非お伺いしたいわ。」
 
フォッグ氏は表情をかえずに答えました。