捨てる神あれば拾う神あり

 
翌日、ロンドンのフォッグ氏邸。
 
昼間はすっかり誰もが気が抜けたように過ごしてしまい、
みな食欲もないままとりあえずお茶でも、となった時にはもう日も暮れ、

ロンドンの街並みは夜の闇の中、ガス灯がともる時刻となっていました。
 
 
お茶を飲みながら、フォッグ氏はアウダに切り出します。
 

 
 
「貴女をこんなところまで連れてきてしまったが、今、私は全財産を失うことになってしまった。
この家にも住めくなるし、貴方の親戚を探すお手伝いもどこまで出来るか・・・。誠に面目ない。」
 
アウダはフォッグ氏を見つめながら、答えました。
 
「何をおっしゃいますか。私をあんな運命から救ってくださっただけで、もう十分なことをしてくださっています。きっとこれからどんな困難があっても、貴方様ならその高貴な精神で切り抜けていかれるでしょう。そして、その時には私はいつもお側にいて、少しでも助けて差し上げたい。
どうか、私を貴方様の妻にしてくださいませ。」
 
 
アウダをじっと見つめるフォッグ氏。
 
「ああ、私はなんということをしてしまったのだろう。
・・・女性からプロポーズの言葉を言わせてしまった。」
 
 
傍らでお茶のお盆を持ったまま、彫像のように固まっているパスパルトゥーにフォッグ氏は言いました。
 
 
「お前、動けるかい?これから大急ぎで牧師様のところへ行って、牧師さまに明日式を挙げてもらうように頼んできてくれ。」

お盆を放り出さんばかりに駆けだしたパスパルトゥー。
 

一目散に牧師の館に駆けつけました。
 
ただ、扉をたたいても、たたいても牧師様は出てきません。

よく見ると、扉にはメモが貼られていました。
 
”隣の小屋に居ます。羊飼いの杖が彫られたドアをノックしてください。”
 
 
見回すと、左右に小屋があり、両方のドアに杖の模様が彫られています。
さて、どちらの扉をノックしますか?