英雄は買い物上手?


 


いよいよ王の遺体の傍らに女性が横たえられ、うずたかく積まれた草木に火が放たれました。
 
熱狂する群衆。

もくもくと立ち上る煙で視界が遮られた次の瞬間!
 
なんとむっくりと王が起き上がり、
女性を抱きかかえてのしのしと煙のなかから出てきたのです!!!
 
 
「王が生き返った!」

「いや、もとから生きていた!」

「なんで!」

「神のおかげだ!」
 
 
 
 
混乱しながらも、ばたばたとひれ伏す群衆。
 
その間を堂々たる足取りでこちらに向かってくる王・・・
いえ、良く見ればそれはなんとパスパルトゥー!
 
 
夜明け前、彼は王の遺体の下の灌木の隙間に体を潜ませ、
この一瞬の機会を待ち受けていたのでした。
 
 
木陰に潜ませていた象の上にパスパルトゥーと女性を押し上げ、
ともに乗り込むフォッグ氏とガイド。

 
ザワザワとざわめきだした群衆は、走り出した象を見つけてやっとこの一大救出劇
・・・彼らからすれば誘拐劇に気づいたのでした!
 

が、時は既に遅し。
 

フォッグ氏一行は、象の確実な走りに助けられ、アルハンブラの駅に到着したのです。


 

 
 

列車の出発前に、アルハンブラの街でその女性のために、
必要な化粧品や服、ショールや毛皮などいろいろなものを
買ってくるようにいいつかったパスパルトゥー。
 
ただ、アルハンブラの街は混沌として、なかなか思うような店が見つかりません。

歩き回った末にパスパルトゥーが最後にみつけたのは、路地の、さらに路地の奥にある薄暗い店。
いえ、店かどうかすらわからない、いろんな品物をざくざくとならべた場所。

ただ、パスパルトゥーの不思議な勘はこんな時にも良くはたらくのでした。
 
「並べ方は滅茶苦茶だが、結構品のよいものがありそうだ。
・・・・そら、この英国式のレディのガウン!その下に靴!
化粧品に毛皮・・・欲しいものがすっかりある!」
 
夢中で品物を抱えたパスパルトゥーの後ろにひっそりと立つベールの影。
 
 
「欲しいのか?」
 
「・・・うわっ!・・・そうそう、欲しいのです。おいくらですか?」

「ふん。買えるかどうかはあんた次第じゃ。つまりあんたが、わしから物を買う資格があるかどうか、ということ。」
 
ベールをかぶったユダヤ人の商人は、ひとつの箱を彼の前に掲げながら言いました。
 
「わしは木の精霊を信じるもの。もしあんたに木の知識があるならば、
欲しいものを譲ろう。・・・この木はなんの木だ?」